謎解きはディナーのあとで
影山:乱れた玄関に他人の靴があることに吉本は気付きません。一方、白井靴子はパニックに陥ったことでしょう。何とか、この窮地を切り抜けたい。しかし逃げ場はありません。すると次の瞬間 予想外の光景が飛び込んできます。吉本瞳が 四つんばいで部屋に入ってきたのです。まるで無防備なその格好を見て、とっさに、白井靴子が暴力という緊急手段に訴えても、不思議ではないでしょう。靴子は手近にあったロープ状の物を手にします。彼女は無我夢中で襲い掛かった。そして、とうとう吉本瞳を絞め殺すに至ってしまったのです。と、事件の概要は。ざっと、このようなものだったと推測されるわけですが、いかがでございましょうか、お嬢さま。
宝生:えっ?そうね。なかなかよろしくてよ。確かに白井靴子が犯人みたいね。でも、どうして殺したのかしら。相手が入ってきたところで、逃げればいいのに。
影山:それは彼女のプライドが許さなかったのでございましょう。
宝生:プライド?
影山:白いハイヒールを履くような女性です。おそらく靴子は気位が高い方だと思われます。そんな彼女が恋人の浮気相手に忍び込んだところを 見つかるなんて、屈辱以外の何物でもありません。しかも、乱雑な部屋に住み、ブーツのままはって、部屋に入ってくるような女性と自分が恋人から 同等に扱われていたと知ったとき、彼女はどう思ったでしょうか。
宝生:気分良くはないかもね。
影山:そこに殺意が生まれることも、あるのでございます。
宝生:でも、そんなことで、人を殺したいと思うかしら。だって、そもそも、田代博之は吉本瞳と 自然消滅したって言ってたのよ。それに、吉本 瞳は本当の浮気相手じゃないし。
影山:お嬢さま、それはおそらく嘘にございます。
宝生:嘘?
影山:田代は吉本瞳とまだつながっていた。だからこそ靴子は強い嫉妬心を抱いたのでございましょう。もちろん、田代にとっては単なる遊び相手だった だけかもしれませんが。
宝生:出掛けるわよ、影山。
影山:どちらへ?
宝生:決まってるでしょ、確かめに行くのよ。
田代:誰ですか?
宝生:どいて。
影山:失礼いたします。
田代:ちょっと
田代:えっ? 何だ
宝生:白井靴子さん。
宝生:単刀直入に、お聞きします。
宝生:あなたはなぜ吉本瞳さんを殺したんですか?
田代:何言ってんだ、あんた。
宝生:やっぱりあなたが。どうして。
白井:あんたに何が分かるのよ。
宝生:影山。
宝生:もう一度だけ、お聞きします。
宝生:なぜ吉本瞳さんを。
白井:あの女が美人で大金持ちのお嬢さまとかだったら、まだ許せたかもしれない。でも、ごみだらけの部屋にいる、あんな女が。
田代:お前、何てことしてくれたんだよ。
宝生:黙らっしゃい。
宝生:あなた、吉本瞳さんとの関係はまだ続いていたの?正直、彼女の気持ちは私にはまったく分からない。だけど、とにかく、この事件はあなたのせいで起こったのよ。今すぐ、この場で、彼女に謝んなさい。
田代:すまない。俺が悪かった。
宝生:全て自供しました。 後の処理はお願いします。
风祭:宝生君、実は僕も犯人が誰か分かっていたんだよ。だが、一歩遅かった、宝生君、宝生君。
警察A:ご苦労さまです。
宝生:やっぱりあなたの言うとおりだったわね。どうせ、また私のことアホだと思ってるんでしょ?
影山:いいえ。ただ、お嬢さまのように純粋なまま大人になった人間はごくまれでございます。多くの人間は多かれ少なかれ、悪意を隠し持っているということをお忘れなきよう。
宝生:影山。
影山:何でございましょう。
宝生:寄ってほしい所があるんだけど。
影山:失礼ですが、お嬢さま、夜更かしはお体に…。
宝生:唐沢のところ。
宝生:24年間も、チョウよ花よと育ててくれちゃって。おまけにずっとストーカーしてたなんて。たっぷりお説教してやんなくっちゃね。あのひげじじい。
影山:かしこまりました。
宝生:影山。
影山:はい。
宝生:あなた大した推理力だけど、どうして執事なんかやってるの?
影山:ホントは私プロの野球選手かプロの探偵に なりたかったんでございます。
宝生:だから、それは答えになってないっつうの。
影山:お嬢さま、これは殺人でございます
风祭:犯人がいるのなら、この中にいるということですよね。
宝生:黙らっしゃい。
影山:他殺である証拠。
影山:私の読みどおりならば。
影山:部屋の中にあるはずです。