星の王子さま~LE PETIT PRINCE~

by Antoine de Saint-Exupery

XXVII

 

さて、いまとなってみると、もう、たしかに六年まえのことです・・・・・・。ぼくは、この話を、まだ、だれにもしたことがありません。その後、ぼくにあった友人たちは、ぼくが生きているのを見て、たいへんよろこびました。ぼくは、かなしかったのですけれど、友人たちには、 <なにしろ、つかれてるんでね・・・・・・> といっていたものです。

 

いまとなっては、かなしいには、かなしいのですが、いくらかあきらめがつきました。といったところで・・・・・・すっかりあきらめがついた、というわけではありません。でも、王子さまが、じぶんの星に帰ったことは、よく知っています。なぜなら、夜があけたとき、どこにも、あのからだが見つからなかったからです。たいして、重いからだではなかったのです・・・・・・。ぼくは夜になると、空に光っている星たちに、耳をすますのがすきです。まるで五億の鈴が、鳴りわたっているようです・・・・・・

 

ところで、どうでしょう。こんな、たいへんなことがあるのです。ぼくは、王子さまの注文で、口輪の絵をかいたのですが、それに、皮ひもをつけることを忘れたのです。だから、王子さまは、とてもヒツジに口輪をはめさせるわけに、いかなかったでしょう。

そこで、ぼくは、<王子さまの星の上では、いったい、どんなことが、もちあがったかしら。ヒツジが花をくったかもしれない・・・・・・>などと考えています。

 

日によると、ぼくは、<そんなことがあるものか。王子さまは、夜になると、いつもたいせつな花に覆いガラスをかけて、ヒツジがよりつかないように、よく目をくばっているのだ・・・・・・>と思うことがあります。すると、ぼくは安心します。そして、空の星がみな、さもたのしそうに笑うのです。

 

また、日によっては、<一度やそこら、うっかりするときがあるものだが、そしたら、もう、おしまいだ。王子さまは、ある日の晩方、覆いガラスをかけることを忘れたか、そうでなけりゃ、ヒツジが、夜そっと外へ出たのだ・・・・・・>と思うこともあります。そうなると、鈴がみな、涙になってしまうのです!・・・・・・

 

まったく、ふしぎなことなのです。あの王子さまを愛しているあなたがたと、ぼくにとっては、ぼくたちの知らない、どこかのヒツジが、どこかに咲いているバラの花を、たべたか、たべなかったかで、この世界にあるものが、なにもかも、ちがってしまうのです・・・・・・

 

空をごらんなさい。そして、あのヒツジは、あの花をたべたのだろうか、たべなかったのだろうか、と考えてごらんなさい。そうしたら、世のなかのことがみな、どんなに変わるものか、おわかりになるでしょう・・・・・・

 

そして、おとなたちには、だれにも、それがどんなにだいじなことか、けっしてわかりっこないでしょう。

 

これが、ぼくにとっては、この世の中で一ばん美しくって、一ばんかなしい景色です。みなさんによくお見せしようと思って、もう一度かきました。王子さまが、この地球の上にすがたを見せて、それからまた、すがたを消したのは、ここなのです。

 

もし、あなたがたが、いつかアフリカの砂漠を旅行なさるようなことがあったら、すぐ、ここだな、とわかるように、この景色をよく見ておいてください。そして、もし、このところを、お通りになるようでしたら、おねがいですから、おいそぎにならないでください。

 

そして、この星が、ちょうど、あなたがたの頭の上にくるときを、おまちください。そのとき、子どもが、あなたがたのそばにきて、笑って、金色の髪をしていて、なにをきいても、だまりこくっているようでしたら、あなたがたは、ああ、この人だな、と、たしかにお察しがつくでしょう。

 

そうしたら、どうぞ、こんなかなしみにしずんでいるぼくをなぐさめてください。王子さまがもどってきた、と、一刻も早く手紙をかいてください・・・・・・

 

http://homepage2.nifty.com/tomatoworld1/prince27.htm

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