星の王子さま~LE PETIT PRINCE~
by Antoine de Saint-Exupery

ぼくは、いくらもたたないうちに、その花がどんな花なのか、もっとよく知るようになりました。

もともと王子さまの星には、花びらが一重で、場所をふさぎもしないし、だれのじゃまもしない、たいへんすっきりした花が、いくつも咲いていました。

あさ、草の中に咲き出しているかと思うと、夕方には、もう消えてなくなる花でした。

だけれど、王子さまのその花は、ある日、どこからか飛んできた種が、芽をふいた花でした。

そしてその芽は、そこらの芽とは、似ても似つかない芽なので、王子さまは、その芽を、しじゅう、つきっきりで見まもっていました。

それは、新しい種類のバオバブであるかもしれなかったのです。

しかし、芽がのびて、小さな木になると、もう、それきりのびなくなって、花をつけはじめました。

大きなつぼみが、腰をおちつけているのを、はたで見ている王子さまは、いまに、あっというほど美しいものが、見えてくるように思われてなりませんでした。

でも、花は、緑のへやにじっとしていて、なかなか、けしょうをやめません。

どんな色になろうかと念には念をいれているのです。ゆっくりと着物を着ているのです。花びらを一つ一つ、ととのえているのです。

ヒナゲシのように、もみくちゃな顔になって、出てきたくないのです。照り光るほど美しい姿にならなくては、顔を見せたくないのです。

ええ、ええ、そうですとも、なかなかのおしゃれだったのです。そんなわけで、ふしぎなけしょうは、いく日もいく日もつづきました。



ところが、ある日の朝、ちょうどお日さまがのぼるころ、花は、とうとう顔を見せました。

なにひとつ手おちなくけしょうをこらした花は、あくびをしながらいいました。

-ああ、まだねむいわ・・・・・・。

あら、ごめんなさい。あたくし、まだ髪をといていませんから・・・・・・
王子さまは、そういわれて、<ああ、美しい花だ>
と思わずにはいられませんでした。

-きれいだなあ!

-そうでしょうか
花はしずかに答えました。

-あたくし、お日さまといっしょに、生まれたんですわ
王子さまは、この花、あんまりけんそんではないな、と、たしかに思いはしましたが、でも、ホロリとするほど、美しい花でした。

-いま、朝のお食事の時間ですわね。あたくしにも、なにか、いただかせてくださいませんの・・・・・・

王子さまは、どぎまぎしましたが、汲みたての水のはいったジョロをとりにいって、花に、朝の食事をさせてやりました。



花は、咲いたかと思うとすぐ、じぶんの美しさをはなにかけて、王子さまを苦しめはじめました。

それで、王子さまはたいへんこまりました。

たとえばある日のこと、花は、そのもっている四つのトゲの話をしながら、王子さまにむかって、こういいました。

-爪をひっかけにくるかもしれませんわね、トラたちが!

-ぼくの星に、トラなんかいないよ。それに、トラは、草なんかたべないからね
と王子さまは、あいてをさえぎっていいました。

-あたくし、草じゃありませんのよ
と花は、あまったるい声で答えました。

-あ、ごめんね・・・・・・
-あたくし、トラなんか、ちっともこわくないんですけど、風の吹いてくるのが、こわいわ。ついたてを、なんとかしてくださらない?

<風の吹いてくるのがこわいなんて・・・・・・植物だのに、どうしたんだろう、この花ったら、ずいぶん気むづかしいなあ・・・・・・>
と王子さまは考えました。

-夕方になったら、覆いガラスをかけてくださいね。ここ、とても寒いわ。
星のあり場がわるいんですわね。だけど、あたくしのもといた国では・・・・・・

花は、こういいかけて口をつぐみました。
もといたといっても、花が、いたのではなくて、種が、いたのでした。
ですからほかの世界のことなんか、知っているはずがありません。
思わず、こんな、すぐばれそうなウソをいいかけたのが恥ずかしくなって、花は、王子さまをごまかそうと、ニ、三度せきをしました。

-ついたては、どうなすったの・・・・・・?
-とりにいきかけたら、きみが、なんとかいったものだから

すると花は、むりにせきをして、王子さまを、すまない気もちにさせました。
そんなしうちをされて、ほんきで花を愛してはいたのですが、すぐに花の心をうたがうようになりました。

花がなんでもなくいったことを、まじめにうけて、王子さまは、なさけなくなりました。

ある日、王子さまは、ぼくに心を、うちあけていいました。
- あの花のいうことなんか、きいてはいけなかったんだよ。
人間は、花のいうことなんていいかげんにきいてればいいんだから。
花はながめるものだよ。においをかぐものだよ。
ぼくの花は、ぼくの星をいいにおいにしてたけど、ぼくは、すこしもたのしくなかった。
あの爪の話だって、ぼく、きいていて、じっとしていられなかったんだろ。だから、かわいそうに思うのが、あたりまえだったんだけどね・・・・・・

それからまた、こうも、うちあけていいました。
- ぼくは、あの時、なんにもわからなかったんだよ。
あの花のいうことなんか、とりあげずに、することで品定めしなけりゃあ、いけなかったんだ。
ぼくは、あの花のおかげで、いいにおいにつつまれていた。明るい光の中にいた。
だから、ぼくは、どんなことになっても、花から逃げたりしちゃいけなかったんだ。
ずるそうなふるまいはしているけど、根は、やさしいんだということをくみとらなけりゃいけなかったんだ。
花のすることったら、ほんとにとんちんかんなんだから。
だけど、ぼくは、あんまり小さかったから、あの花を愛するってことが、わからなかったんだ。


http://homepage2.nifty.com/tomatoworld1/prince8.htm

 

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