星の王子さま~LE PETIT PRINCE~
by Antoine de Saint-Exupery
Ⅸ
渡り鳥たちが、ほかの星に移り住むのをみた王子さまは、いい折だと思って、ふるさとの星をあとにしたのだとぼくは思います。
出発の日の朝、王子さまは、じぶんの星を、きちんと整理しました。
念入りに活火山のすすはらいをしました。そういえば王子さまは、活火山を、二つ持っていました。
ですから、朝の食事をあたためるには、たいそうべんりでした。
休火山も一つ持っていました。しかし、王子さまもいっていましたとおり、それが、まったく爆発しないとはかぎらないのです。だから、王子さまは、休火山のすすはらいもしました。
火山というものは、よくすすはらいしておきさえすれば、爆発なんかしないで、しずかに規則ただしく煙をはくものなのです。火山の爆発は、煙突の火とかわりありません。
この地球の上では、ぼくたち人間が、あんまり小さくて、火山のすすはらいするわけにはいかないことは、いうまでもありません。だから、ぼくたちは、火山の爆発のために、さんざ、なやまされるのです。
王子さまは、つい、このごろ生えたバオバブの芽を、どこか顔をくもらせて、ぬきとりました。
もう、二度と帰ってこないつもりだったのです。
いつもするそんな仕事も、その朝は、ほんとに身にしみました。
そして、わかれのしるしに、花に水をかけて、覆いガラスを、かけてやろうとしていると、王子さまは、いまにも涙がこぼれそうになりました。
- さよなら
と、王子さまは花にいいました。
しかし、花はなんともいいません。
- さよなら
と、王子さまはくりかえしました。
花は、せきをしました。でも、かぜをひいているからではありませんでした。
- あたくし、ばかでした
と、花は、やっと、王子さまにいいました。
- ごめんなさい。おしあわせでね・・・・・・
王子さまは、花がちっともとがめるようなことをいわないので、おどろきました。
そして、覆いガラスを空に向けたまま、すっかりめんくらって、じっと立っていました。
花がどうして、こうおとなしくしているのか、わけがわかりませんでした。
- そりゃ、もう、あたくし、あなたがすきなんです。
あなたがそれを、ちっとも知らなかったのは、あたくしがわるかったんです。
でも、そんなこと、どうでもいいことですわ。
あたくしもそうでしたけど、あなたもやっぱり、おばかさんだったのよ。
おしあわせでね・・・・・・もう、その覆いガラスなんか、いりませんわ
- でも、風が吹いてきたら・・・・・・
- あたくしのかぜ、たいしたかぜじゃありませんもの・・・・・・夜の涼しい風に吹かれたら、さっぱりしますわ・・・・・・花なんですもの
- でも、けものが・・・・・・
- あたくし、チョウチョウのお友だちになりたかったら、二匹や三匹のケムシはがまんしなくちゃあね。
チョウチョウって、なんだか、たいそう美しそうですわ。
チョウチョウでなくて、だれが、あたくしをたずねにきてくれるでしょう。あなたは、遠くにいっておしまいですからね。
大きなけもののことだったら、ちっともこわかないわ。あたくしだって、爪はもっているんだから
花は、そういって四つのトゲを、むじゃきに見せたあと、こうつけ加えました。
- そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。
もうよそへいくことにおきめになったんだから、いっておしまいなさい、さっさと!
花がそういったのは、泣いている顔を、王子さまに見せたくなかったからでした。
それほど、弱みを見せるのがきらいな花でした。
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