星の王子さま~LE PETIT PRINCE~
by Antoine de Saint-Exupery
Ⅺ
二ばんめの星には、うぬぼれ男が住んでいました。
- やあ!やあ!おれに感心してる人間がやってきたな
と、うぬぼれ男は、王子さまを見かけるなり、遠くからさけびました。
うぬぼれ男の目から見ると、ほかのひとはみな、じぶんに感心しているのです。
- こんにちは。へんなぼうしかぶってるね
- こりゃ、あいさつするためのぼうしだ。おれをやんやとはやしてくれる人がある時に、あいさつするためのぼうしなんだ。
でも、あいにく、だれも、こっちのほうへやってこないんでね
- あ、そう?
と、王子さまはいいましたが、あいてがなにをいっているのか、わからなかったのです。
- 手をたたきなさい、パチパチと
と、うぬぼれ男はいいました。
王子さまは、手をパチパチとたたきました。すると、うぬぼれ男は、ぼうしをもちあげながら、ていねいにおじぎしました。
こりゃ、王さまをたずねるよりおもしろいな
と、王子さまは思って、また、手をパチパチとたたきました。うぬぼれ男は、またぼうしをもちあげながら、おじぎしました。
五分間も、手をたたくけいこをしているうちに、王子さまは、することがいつまでもおなじことなので、くたびれました。
- そのぼうし、どうしたら、下におりるの?
だけれど、うぬぼれ男の耳にははいりません。ほめることばでなくては、うぬぼれ男の耳には、けっしてはいらないのです。
- おまえさんは、ほんとにおれに感心してるかね?
と、うぬぼれ男が王子さまにたずねました。
- 感心するって、それ、いったい、どういうこと?
- 感心するっていうのはね、おれがこの星のうちで、一ばん美しくって、一ばんりっぱな服を着ていて、一番お金もちで、それに、一ばん賢い人だと思うことだよ
- でも、この星の上にいる人ったら、あんたひとりっきりじゃないの!
- たのむからね、まあ、とにかく、おれに感心しておくれ
- ぼく、感心するよ
と、王子さまは、心もち肩をそびやかしながらいいました。
- でも、人に感心されることが、なんで、そうおもしろいの?
王子さまは、そういって、そこを立ち去りました。
おとなって、ほんとにへんだな、と王子さまは、旅をつづけながら、むじゃきに思いました。
http://homepage2.nifty.com/tomatoworld1/prince11.htm
Ⅻ
つぎの星には、呑み助が住んでいました。
王子さまは、その呑み助を、ほんのちょっとたずねたきりでしたが、ひどく気がしずんでしまいました。
呑み助は、空のビンと、酒のいっぱいはいったビンを、ずらりと前にならべて、だまりこくっています。
王子さまは、それを見て、いいました。
- きみ、そこで、なにしてるの?
- 酒のんでるよ
と、呑み助は、いまにも泣きだしそうな顔をして答えました。
- なぜ、酒なんか飲むの?
と、王子さまはたずねました。
- 忘れたいからさ
と、呑み助は答えました。
- 「忘れるって、なにを?
と、王子さまは、気のどくになりだして、ききました。
- はずかしいのを忘れるんだよ
と、呑み助は伏し目になってうちあけました。
- はずかしいって、なにが?
と、王子さまは、あいての気もちをひきたてるつもりになって、ききました。
- 酒のむのが、はずかしいんだよ
というなり、呑み助は、だまりこくってしまいました。
そこで、王子さまは、当惑して、そこを立ち去りました。
おとなって、とっても、とってもおかしいんだなあ、と、王子さまは、旅をつづけながら考えていました。
http://homepage2.nifty.com/tomatoworld1/prince12.htm
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