星の王子さま~LE PETIT PRINCE~
by Antoine de Saint-Exupery
XX
ところで、王子さまが、砂原と、岩と雪をふみわけて、長いこと歩いていますと、やっと、一本の道をみつけました。
道というものは、みな、ひとのいるところへ、通じているものなのです。
- こんにちは
と、王子さまがいいました。
そこは、バラの花のさきそろっている庭でした。
- こんにちは
と、バラの花たちがいいました。
王子さまは、バラの花をながめました。花がみな、遠くに残してきた花に似ているのです。
- あんたたち、だれ?
と、王子さまは、びっくりしてききました。
- あたくしたち、バラの花ですわ
と、バラの花たちがいいました。
- ああ、そうか・・・・・・
そういった王子さまは、たいへんさびしい気もちになりました。
考えると、遠くに残してきた花は、じぶんのような花は、世界のどこにもない、といったものでした。
それだのに、どうでしょう。見ると、たった一つの庭に、そっくりそのままの花が、五千ほどもあるのです。
王子さまは考えました。
- もし、あの花が、このありさまを見たら、さぞこまるだろう・・・・・・やたらせきをして、ひとに笑われまいと、死んだふりをするだろう。そしたら、ぼくは、あの花をかいほうするふりをしなければならなくなるだろう。だって、そうしなかったら、ぼくをひどいめにあわそうと思って、ほんとうに死んでしまうだろう・・・・・・
それから、王子さまは、また、こうも考えました。
- ぼくは、この世に、たった一つという、めずらしい花を持ってるつもりだった。ところが、じつは、あたりまえのバラの花を、一つ持ってるきりだった。あれと、ひざの高さしかない三つの火山
(火山も一つは、どうかすると、いつまでも火をふかないかもしれない)。ぼくはこれじゃ、えらい王さまなんかになれようがない・・・・・・
王子さまは、草の上につっぷして泣きました。